研究概要 |
病院を退院した体内埋込型人工心臓装着患者の安全を確保するには,人工心臓の早期異常診断システムが不可欠である.人工心臓の異常発生時には前兆としてその発生音や発生振動に変化が現れるため,人工心臓の異常診断には遠隔的に人工心臓発生音をモニタリングする技術が必要となる.そこで本研究では,体表上で体内の人工心臓発生音を測定しPHSにより病院内ホストコンピュータに伝送するシステムの開発を行い,東京大学で開発を進めている波動型人工心臓(UPTAH)による動物実験により評価・検討を行った. 体表上で人工心臓発生音を測定する電子聴診システムは,市販の電子聴診器集音部に広帯域のコンデンサーマイクロフォンを組み込んだ人工心臓集音部,広帯域増幅部,およびパーソナルコンピュータより構成し,パーソナルコンピュータのサウンドカードより人工心臓発生音を取り込み後にPHSを利用して病院内ホストコンピュータに伝送する. 電子聴診システムに必要な周波数特性とサウンドカードのサンプリング周波数とデータ長,異常診断に必要な測定時間とデータ長について検討するため山羊によるUPTAH長期埋込み実験を行った.その結果,体表上にて人工心臓発生音信号の帯域は,10Hz以下の低周波数成分より5000KHz程度まで広がっていること,信号のサンプリング周波数とデータ長ではFFT解析による異常診断には16ビットデータ長・20kHzサンプリングで十分であるが,専門家による聴音診断には16ビットデータ長・44kHzサンプリングが必要なことが分かった.また,人工心臓発生音の周波数解析結果より,低周波数領域はモータ回転速度に依存しておりこの領域の信号振幅を経時的に測定することでモータ異常,モータ回転軸の偏心,ポンプーモータ間の機械的リンク機構の異常を推定できること,また500Hz〜5kHzの発生音は人工心臓アクチュエータ内で使用されているボールベアリング由来の音であり,この周波数領域の信号振幅の経時的増加の程度よりボールベアリングの劣化の進行状況と寿命予測が可能であることが分かった. 現在,上記の電子聴診システムの動物実験による結果をふまえ,体内に埋め込む人工心臓に直接装着可能な人工心臓用体内埋込型マイクロフォンシステムの開発を試みている.体内埋込み可能でかつ人工心臓発生音の増幅が可能な超小型アンプシステムを電子回路シミュレータを用いて最小化設計し,マイクロフォン集音部および電子回路開発をCAD/CAM技術を用いて行った,マイクロフォン集音部は直径5mm,厚み2mmの携帯電話用超小型マイクロフォンをシリコーンゴムでモールドした.その結果体内埋込み型マイクロフォン部の大きさは直径8mm,厚み8mmと人工心臓inflowカニューラに装着可能な形状にした.今後,in vitro実験により長期安定性について検討後,動物実験による評価・検討を行う予定である.
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