研究概要 |
人工心臓発生音からコンピュータによる自動異常診断の実現には,人工心臓装着患者の周囲雑音が障害となる.患者の周囲雑音のうち一部は直接人工心臓発生音用マイクロフォンに入るが,殆どは肺など体内を経由し人工心臓発生音用マイクロフォンに混入する.そこで本年度は,体外に人工心臓発生音用マイクロフォンに加え外部雑音用マイクロフォンを体表上に設置し,アダプティブノイズフィルターにより人工心臓発生音測定信号から外部雑音信号を抑制する方法を考案し最終年度として動物実験により評価した. 動物実験には波動型補助人工心臓が埋込まれている山羊を用い,その体表上で人工心臓発生音を測定するために埋込位置付近に人工心臓発生音用マイクロフォンを置き,もう一つは体表上の肺付近に外部雑音用マイクロフォンを置いた.これらマイクロフォンから得られた音信号はA/D変換ボードを通し山羊が死亡し実験が終了するまで蓄積した.人工心臓埋込山羊は,実験開始から7日目に膜の破損によるアクチュエータへの血液の流出にともなう循環不全により死亡した.実験開始から蓄積後のデータを解析し,アクティブノイズフィルタによる外来雑音抑制効果及び実験終了原因と人工心臓発生音の関係を調べた. その結果,人工心臓発生音マイクロフォンで測定された信号に対しアダプティブノイズフィルターを通した人工心臓発生音の信号は平均3dB雑音が低減し,周囲雑音が効果的に抑制された. 人工心臓発生音の経時的変化を,周波数-時間解析法により検証したところ,アクチュエータ側への血液流出に伴い8kHz近傍の高い周波数領域の発生音が消失し,また1kHz以下の周波数領域においてもモータ回転速度の低下に伴い低い周波数領域に信号成分がシフトしていることを確認した.今回の結果より,人工心臓発生音周波数成分の時間変化を自己組織化マップなど学習なしニューラルネットワークを用いることで異常の早期自動診断が可能であることが分かった.
|