研究概要 |
本研究の最終目的は前立腺の代表的疾患(前立腺癌ならびに前立腺肥大症)の鑑別診断を非侵襲的に行うと共に,温熱療法などの低侵襲治療の治療効果を高めるための核磁気共鳴法(MRI)による支援を行うことである.プロトンMRSIを用いて前立腺内のクエン酸とコリン(あるいはこれに加えてクレアチン)の信号強度比を観測することにより細胞の癌化を定量測定することが可能である.また同じくプロトンMRSIを用いて前立腺の温度を求めることができる.これらの原理を踏まえ今年度はまず,前立腺に含まれる主たる代謝物のうちcholine,creatineは化学シフトが有意なpH依存性を示さないがcitrateは-0.09ppm/pHのpH依存性を呈することを見出した.3Tにおけるクエン酸信号の強度がJ変調と化学シフトの影響で特異的に変化し約290msのエコー時間で最大のピークを迎えることを見出した.この結果はこれまで1.5Tの臨床機において約140msのエコー時間が最大値を与えるという結果と大きく異なるものであった.密度行列計算を用いたシミュレーションによりこの現象の理論的裏づけを行った.この結果J変調,化学シフト,ならびにパルスタイミングを厳密に考慮すると,スペクトル強度の実測値と理論値が0から300ms程度のエコー時間範囲においてよく一致した.独自に設計・試作したヒト骨盤部位用コイルを用いて低いRFパワーを利用して前立腺の磁気共鳴スペクトルを得ることに成功した.同コイルによる撮像時の温度上昇をMRIによる位相画像化法で画像化した.およそ30分間のRFパルス連続照射により外陰部あたる部分の温度上昇が約1.5℃程度であることを明らかにした.同コイルとMRSI撮像シーケンスの組み合わせの最適化を行った. 以上本年度の検討で研究の基礎要素が整備されたので,来年度は動物組織を用いた各化学シフト成分のpH依存性の検討,ならびにコイルの冷却に伴うS/Nの向上法の検討などを行う.
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