研究概要 |
本研究の最終目的は,超高磁場MRIを用いて前立腺疾患(前立腺癌ならびに前立腺肥大症)の鑑別診断を非侵襲的に行うと共に,温熱療法などの低侵襲治療の治療効果を高めるための核磁気共鳴法(MRI)による支援を行う方法・装置を検討することであった.平成13年度の検討で研究の基礎要素が整備されたので,本年度は主として前年度開発した体外型前立腺用コイルに合わせた磁場シーケンスの最適化と,そのシーケンスとコイルの組み合わせによる代謝物検出能を検討した.シーケンスに関しては基本となるスピンエコーによる体積励起と位相エンコードの組合せに加えるべき種々の付加パルス群を検討した結果,観測体積外の脂肪信号を抑制するためのOVSパルス(Outer、Volume Suppression)及びスピンエコーパルスに特殊な変調を加えた周波数・空間同時選択パルスを併用したシーケンスが最も有用であった.同シーケンスで化学シフトアーチファクトを考慮したシミングを施し,撮像を行った結果,健常ボランティアにおいてクエン酸,コリン,クレアチンが明瞭に分離できるスペクトルの2次元分布を得ることができた.各代謝物信号のSN比は5程度であった.このような計測による新たな知見として,これまで不明であったクエン酸信号の横緩和時間を計測することができた.複数のエコー時間に対するクエン酸信号の強度を,密度行列法によりJ変調と化学シフトを考慮して計算したモデル関数にフィットすることによりボランティアの前立腺移行域におけるクエン酸横緩和時間が80ms程度であることがわかった. 患者ボランティアによる測定においては,癌検査のための生検針による出血のため,スペクトルの線幅が広がり,上述のような代謝物信号を分離するのが困難であった.またpH計測に関しては,動物モデルを対象とした場合にコイルのQ値が著しく低下し,代謝物信号のpH依存性を計測するには至らなかった.これらの点については,本補助金による研究完了後も基礎実験を継続し,当初の目標を達成すべく努力する所存である.
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