研究概要 |
まず前立腺の代謝物のうちコリン、クレアチンは化学シフトがpH依存性を示さないがクエン酸は0.09ppm/pHのpH依存性を呈することを見出した.ファントム実験により3Tにおけるクエン酸信号の強度がJ変調と化学シフトの影響で特異的に変化し約290msのエコー時間で最大のピークを迎えることを見出した.密度行列法によるシミュレーションを行い、J変調,化学シフト,パルスタイミング、ならびにT2を厳密に考慮すると,T2値が133ms以上であれば290ms付近に、133ms以下であれば140ms付近に最大ピークが得られることが分かった。 プローブの開発では当初コイルの冷却による熱雑音低減を検討したが、それよりもコイルの形状に工夫を加えて、対象となる下腹部前立腺付近に近づけたほうが実効的な信号対雑音費が向上することが明らかになった。そこで二つの8字コイルが腹面・背面ならびに両側大腿部付け根から前立腺を取り囲むコイルを試作した。この結果、1.5Tでフェーズドアレイを用いた場合に対し、辺縁部で2.1倍程度、中心部で1.3倍程度の信号対雑音比の改善が得られた。コイル特性を生かすよう撮像シーケンスを最適化した。周囲脂肪を抑制する体積外脂肪抑制パルス、代謝物信号に合わせ検出効率を上げる永信号抑制パルス、体積・代謝物周波数を同時選択する帯域限定型空間-周波数励起パルスを組み合わせた高効率なシーケンスを開発した。 以上の成果を用いて健常ならびに患者ボランティアによる撮像を行った。健常ボランティアではコリン、クレアチン、クエン酸の信号が明確にわかるスペクトル分布を得ることが可能であった。前立腺癌患者ボランティアでバイオプシを受診し、手術が確定している方を対象とした。しかし、検査針による腺内の出血のため還元ヘモグロビンの磁性が現れ、出血部位付近の磁場均一度が低下し、スペクトル線幅が広がって、S/Nが極端に低下することが明らかになった。このため、癌におけるクエン酸化学シフトのpH依存性に関して知見を得ることができなかった。この点に関しては今後,本研究の成果に基づいて,検査針による検査を受ける前の患者よりデータを収集してフォローする所存である。 最後に,本研究補助金を賜った日本学術振興会に心から感謝の意を表します.
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