本研究では、水系で環境の温度変化に応答してポリマー修飾表面の親水性/疎水性変化と同時に、荷電密度をも変化させることの可能な温度応答性ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)誘導体修飾表面の設計、調製と、生理活性物質の効率的な分離を可能とする新しいクロマトグラフィーシステムの構築を目的としている。昨年度に温度応答性カチオン性表面の設計と生体のエネルギー代謝で重要なアデノシンヌクレオチドとの相互作用制御と分離を検討した。この結果をふまえ、本年度は4種類の核酸塩基(AMP、TMP、CMP、GMP、UMP)とカチオン性温度応答性表面との相互作用を解析した。対照としてカチオン性基をもたない表面を用い、解析した。カチオン性温度応答性表面は、重合開始剤固定化アミノプロピルシリカビーズ表面で所定のモノマーを重合して得た。この表面は、温度変化に応答し表面電位が変化し、荷電密度が低下することを確認した。荷電をもたないP(IPAAm-BMA)表面ではいずれのヌクレオチドも相互作用せず、排除体積で溶出した。一方、カチオン性基をもつ温度応答性表面では、塩基の構造の相違によって保持時間が変化した。このとき、塩基とリン酸基のpKa値、ならびに分子全体の疎水性度とのバランスにより保持時間が変化した。塩基やリン酸基のpKaが溶質の保持に関与することは、溶離液のpHを変化させた実験からも明らかとなった。温度が高温側になると、pH7では溶出が速くなった。これは、カラム担体表面のカチオン性温度応答性ポリマーの荷電密度が温度上昇に伴って低下することと対応していると考えられた。以上の結果、ヌクレオチド類を温度変化でカラム担体表面の疎水性と荷電密度とを同時に制御して保持時間を変化させ分離できる可能性が示された。次年度はオリゴヌクレオチドを溶出としてカチオン性温度応答性ポリマー表面を用いたカラムとの相互作用を検討し、核酸の分離に効率的なカラム設計を目指す。
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