本年度の研究内容は、以下の三点に纏められる。 1.ナベールの遺稿研究:ナベールの遺稿集『神の欲望』の綿密な研究を進める一方で、パリのナベール試料センター(私自身correspondantとしてその運営にかかわっている)との緊密な連携の下で、新資料を調査したり、他の研究者と意見交換するという活動を続けてきた。それを通して、ナベールの晩年の思索から、レヴィナスやデリダにも比しうる「ポストモダンの宗教哲学」の可能性を掘り起こすことができるという見通しが固まってきた。この見通しを、今年一月のナベール資料センターでの研究発表会で提示したところ、他の出席者からも大きな反響が得られた。 2.ラニョーの神論の研究:『神についての講義』のなかに、レヴィナスやマリオンとは別の経路で「存在なき神」を考え抜こうという構想を読みとるべく、ラニョーの他のテクストも詳細に参照しながら研究を続けてきた。この研究は、今春に論文の形で纏める予定である。 3.リクールの新著『記憶、歴史、忘却』の研究:1と並行してこの作業を行うことによって、最近のリクールにおいてますます重要な意味をもってきている「証言」や「証し」の概念の哲学的な重要性が明らかになり、またそこからナベールの「証言の解釈学」に新たな光が投ぜられつつある。
|