本年度の研究内容は以下の二点にまとめられる。 1.ナベールの遺稿研究:昨年度にパリのナベール資料センターで行った資料調査と意見交換に基づいて、本年度は、ナベールの神論が最終的に「証言の形而上学」という形をとったことの意味を、「<神の死>以降の神」という問題関心から究明することに努めた。その成果は、論文《Temoignage comme passage originaire : metaphysique du temoignage chez Jean Nabert》として、来年度にフランスで出版される論集に収録される予定である。 2.「証言と歴史」という角度からのレヴィナス研究:1の研究は、ナベールに結実したフランス反省哲学の遺産を継承しつつ、さらにそれを超えて神の問題を究明するための道として、「証言から歴史へ」という道がありうることを示唆するものであった。これはリクールの新著『記憶、歴史、忘却』からの啓発によるものでもあるが、そのような角度からレヴィナスの神論に光を投じることができるという発見が、本年度の研究の最大の収穫であった。それによって、フランス反省哲学の哲学史的研究を、現代における「宗教哲学」の可能性の探究という私自身の思索に繋げる方途が見えてきたからである。この成果の一部は、21世紀COEプロジェクトの研究会「新たな対話的探求の論理の構築」での発表「証言から歴史へ:対話の臨界に立って」で披露された。
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