平成14年度の研究は、研究計画に従い、平成13年に文献研究に基づき明らかにしたインドネシアの公認宗教政策に関するマクロレベルの動向を踏まえた上で、トバ・バタック移民社会における価値観の変動と再編の様相およびエスニック・チャーチのそれへの関与を、実態調査に基づいたミクロレベルの分析で明らかにすることを試みた。平成13年度に二回、今年度に一回インドネシア共和国北スマトラ州のメダン市においておこなった調査では、主にトバ・バタック移民社会における(1)教会での日曜集会、(2)各種互助組合の祈祷会、(3)人生儀礼をとりあげ、都市社会におけるそれらの変容に関する基礎的なデータを集めつつ、一方でそれらの場面におけるキリスト教式の「祈り」「説教」を録画録音して収集するという作業をおこない、帰国後テープおこしと翻訳をおこなったうえでそれらの分析をおこなった。 その結果、1.都市社会の「近代的」生活が彼らの価値観を個別化・多様化していく一方で、各種互助組合などが中心になりその再編を試みる動きが存在していること(論文2)、2.それら互助組合の結成が上記の公認宗教政策がメダンに浸透していった時期と重なり、それゆえにキリスト教とエスニシティという異なった原理に基づく組織となったこと(論文1)、3.具体的な価値観の再編の場面を遺族慰撫儀礼をめぐる親族間の葛藤と、キリスト教的祈りを通しての再統合のプロセスにおいて検討し、象徴操作の専門家としての教会長老による「死」の意味づけの変更がそこで決定的な役割を果たしていること(論文3)、が明らかになった。
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