本年度は主に14世紀から16世紀にかけてのヨーロッパにおける宗教改革とそれに関係する宗教的な遺物、ならびにその製作者たちと宗教者の関係に付いての調査と研究を行なった。なかでもドイツ・ザクセン地方を中心とするルター・メラヒトンなどによる宗教改革に関する遺物のうち、とくに画家ルカス・クラナハとその工房による二つの祭壇画(ワイマール市教会.ハレ・マルクト教会)に描かれた人々から当時の、ルターを取り巻く外護者たちの実像をその身分・出自・職業などによる「結衆」要因について分析した。またすでにその存在が確認されていた、16世紀クラナッハによる『ビッテンベルグの聖遺物図録(Wittenberger Heiltunbuch)』の調査(ベルリン文化財団)、ならびに現地で確認したグリューネヴァルトによる『ハレ(Am Saal)の聖遺物図録(Hallesch Heiltunbuch)』について撮影と資料化の作業を行った。後者はまだ日本には未紹介の資料で、今後その記事内容についての分析を残す。 国内における宗教改革期における聖遺物に関する調査研究としては、快慶作岡山・東寿院阿弥陀如来立像の像内納入品資料の調査を行った。ここでは新たに鎌倉時代新仏教が成立する過程で、いかに旧仏教の教団、または古代的な仏教信仰を新興教団が取り込んでいったのかという課題についてこの東寿院阿弥陀如来立像の像内納入品資料から明らかにした。本研究の成果としては青木淳「仏師快慶とその信仰圏」、同「東寿院阿弥陀如来像の像内納入品資料」などの論文、『造像銘記基礎資料集成 鎌倉時代1』(中央公論美術出版)などの資料集を執筆した。
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