今年度は、最終年度として、次のような研究を行った。それは、ヒップホップに代表されるリサイクル共有ネットワーク文化の変容のなかで、新しいものはどのようにして生まれてきたのか、そして、今後新しいものが生まれてくる可能性をどのように確保していくかという問題に関わるものである。音楽のゲーム理論、進化計算を用いたシミュレーションによる音楽の生成理論を参照しつつ、研究は行われた。 音楽のゲーム理論(矢向2001)では、音楽とは「持続・反復-是認」および「追認・変更」のゲームであるとされるが、そもそもこのゲームが成り立つためには特定の「場」が必要であること、しかもその場は、特定のアイデンティティに拘束されることのないものでなければならないこと、そうして「変更」のゲームを確保する必要があることを、旧東独地域のヒップホップの分析なども交えて明らかにした。進化計算を用いた音楽の生成理論についても、同様に、進化計算に基づく音列に「是認」や「変更」をもたらす判定者の役割が依然重要であることを明らかにした。 以上から、閉鎖的ではない「場」を確保すること、そしてその場のなかで行われる反復のゲームを判定し変更する可能性を確保することが、新しいものの生成にはどうしても必要であるという結論を得た。また有意義な判定のためには、繰り返し、何度も「思い出すこと」や反応を「遅延させること」が重要であり、必ずしも全世界を瞬時につなぐような高速ネットワークだけが必要なのでないことも明らかにされた。
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