研究概要 |
2001年度は主に,13〜14世紀に建造されたドイツ・バイエルン州北部の女子シトー会修道院聖堂を調査の対象とした。これらはいずれもドンナレジーナ聖堂と同様に,身廊の約半分を覆う2階女子修道女席と,長後陣Langchorかそれと同種の形体とみなされる「短い長後陣Kurzchor」を備えている。こうした作例との比較検討を通じて,イタリアでは類例を見ないドンナレジーナ聖堂の建築の特徴を的確に指摘し,そこに描かれる絵画を建築の文脈の中で解釈した。聖堂内にいる絵画と建築の享受者(修道女)を念頭に置き,特定の建築類型が及ぼす効果を考慮に入れることによって,絵画装飾の機能・意味がより適切に理解しうることを示すことができた。これはまた,クララ会修道女の宗教的実践と美術との関係を明らかにしようとする研究にも貢献するものである。 建築と絵画を相補的な要素として取り上げ,双方を複合的に検討する作業の中で,当初もっぱら建築のタイプとその効果に注目していたが,建築の特定の場所(聖堂の内陣,修道院の参事会室など)が担う意味・役割を考察の手がかりとすることも有益であるとの見通しを得た。これを踏まえて,ナポリからやや離れるがやはりアンジュー家とフランシスコ会の環境の中で,アンブロージョ・ロレンツェッテイによってシエナのサン・フランシスコ修道院参事会室のために制作されたフレスコ画についての発表を準備中である。("Memory without Mementos: Franciscan Missions and Italian Art in the age of Marco", Marco Polo and the Encounter of East and West, May 24th to May 26th, 2002, the Humanities Centre-University of Toronto)。
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