ドンナレジーナ聖堂は、内陣と2階修道女席の建築タイプにおいて、イタリアでは同様のものを見出せないため、昨年度から引き続いて比較作例として、ドイツのバイエルン州中北部、バーデン・ヴュルテンベルク州北東部の女子シトー会修道院と、ヘッセン州のアルテンベルクにある女子プレモントレ会修道院などを実地に調査した。基本的な資料となる建築写真を準備した上で、ミュンヘンの中央美術史研究所、バイエルン州立美術館などで文献にも当たっている。 絵画に関しては、一部が失われてしまっているが、詳細に物語場面が描き込まれているドンナレジーナ聖堂の「アレクサンドリアの聖カタリナ伝」と「ローマの聖アグネス伝」を中心に検討した。プリンストン大学のIndex of Christian Artで網羅的に中世の作例を調べ、両聖人伝の図像が確立してゆく時期にあって、ドンナレジーナ聖堂の連作がどういった特徴を備え、修道女のみによって鑑賞されたという特殊な状況が、どのように反映しているかを考察した。また、同じく広大な修道女席を備えたサンタ・キアーラ聖堂の絵画を再構成するための調査を、ナポリの文化財保護局で始めている。 なお本研究は、建築と絵画とが密接に関係する事例を対象とするものであるが、この観点から、シエナのサン・フランチェスコ修道院参事会室にあったアンブロージョ・ロレンツェッティによるフレスコ画『フランシスコ会士の殉教』と『トゥールーズの聖ルイと教皇ボニファティウス8世』を取り上げて検討し、その最初の成果をトロント大学人文学研究所の企画によるシンポジウム「マルコ・ポーロと東西の出会い」で発表した。いずれのテーマもフランシスコ会とアンジュー家に関わるものであり、今後ナポリだけに限らず、北イタリアも含めた広い範囲にわたる研究に結び付く可能性を示すものである。
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