本奨励研究の初年度(平成13年4月-平成14年3月)は、研究計画に基づき、アメリカ合衆国インデアナ大学ブルーミントン校、アリゾナ大学フェニックス校・フラグスタッフ校図書館において2度にわたる調査を行った。 本研究の第一の目的は、挿絵を横向きに配置する一群の東方キリスト教(アルメニア・シリア)装飾写本の存在を確認することであった。中世装飾写本のレイアウト上の諸特徴は、美術史文献にも稀にしか言及されず、予備調査の大部分は、ほとんど世に知られていない定期刊行物や古書の探索にあてねばならなかった。本計画が専門図書館施設の利用を必要とした所以である。本調査の結果、10-16世紀の装飾本聖書のうちアルメニア関係12本、シリア関係10本が本比較研究の対象となりうることが判明した。 第二の目的は、マニ教・キリスト教写本間におけるレイアウト上の関係に関する草稿の執筆であったが、本論考はすでにARAM Society for Syro-Mesopotamian Studies(シリア・メソポタミア研究学会)に提出・受理され、平成14年7月オックスフォード大学で開催される国際学会で発表の予定である。ここではマニ教のケースについて略述したが、これは西アジア・メソポタミアにおける同種の装飾写本との関連を示すためである。比較資料は8〜11世紀の東方キリスト教(アルメニア・シリア)装飾聖書と、10〜17世紀のイスラム教関係装飾写本(コーラン、文法書、本草書)である。これらの書物におけるレイアウト、テキストと図の相関的なつながりを検討した結果、挿絵の横向き配置は、8〜11世紀の西アジア、中央アジアではまれなことではなく、イスラム関連書物では17世紀に至るまで使用されていたことが確認できたのである。
|