本年は、メロディの異同判断課題(弁別課題)を用いて、聞き手のメロディ注意の特徴を調べた。比較刺激において、例えば、音高、リズム、和音、フレーズ境界などを変えたときに、それぞれに対する聞き手の弁別精度を求めるわけである。今回行った実験では、メロディの諸要素のうち特に、主要素とも言うべき"音高"と"リズム"に注目し、聞き手がそのどちらをより弁別できるか、より注意を向けているかを明らかにしようとした。実験では、MIDIデータで作成された"メロディパート(ピアノ音)"、"ベースパート(エレキベース音)"、"リズムパート(ドラム、スネア音)"の3パートからなる音楽刺激を標準刺激として提示し、比較刺激として"標準刺激と全く同一の刺激"、"標準刺激のリズムパートのリズムを変化させた刺激"、"標準刺激のメロディパートの音高を変化させた刺激"のうちのいずれかを提示した。被験者の課題は、比較刺激が"標準刺激と同一"か"メロディの音高が異なる"か"リズムパートのリズムが異なる"かのいずれかを答えることであった。実験の結果、聞き手はリズムよりもメロディの音高の変化に気が付きやすい(リズム再認率:.36、メロディ再認率:.63)が、一方、メロディが変化していない刺激に対して間違って"メロディが変化した"と反応してしまう率(False Alarm : FA率)がリズムのFA率よりも非常に高く(リズムFA率:.13、メロディFA率:.39)、単純に、彼らがリズムよりもメロディの方をよりよく識別できるというわけではないことが明らかになった。しかし、聞き手の反応が"リズム変化"よりも"メロディ変化"に偏っているということは、彼らがリズムよりもメロディの音高の側面により多くの注意を配分していることを示唆すると言えよう。
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