海馬は記憶や学習と密接な関連があり、その生理学的基礎としてNMDA受容体からのCa^<2+>流入によって誘導される長期増強が注目されている。海馬の主要な興奮性シナプスのうちNMDA受容体依存性長期増強を示すのは歯状回の貫通線維-顆粒細胞間シナプスとCA1野のシャファー側枝-錐体細胞間シナプスである。本研究では、ラットの学習課題遂行においてCA1シナプスと歯状回シナプスとの間に機能差があるかどうか検討した。雄8週齢Wistarラットの海馬CA1または歯状回に組換えシンドビスウイルスベクター(SIN)をin vivo注入し、注入後2〜4日目の期間モリス水迷路学習課題を課した。その結果、CA1にCa^<2+>透過性AMPA受容体を発現させた場合は統制群に比べて成績が向上したが、歯状回に発現させた群では逆に統制群よりも成績が低下した。以上より、CA1と歯状回はシナプス応答の長期増強誘導に関しては類似の機構を有するが、Ca^<2+>透過性AMPA受容体発現の空間学習課題遂行への影響という点で、両領野間に機能差が存在することが示唆された。CA1野における学習課題成績上昇が、ウイルスベクターによるCa^<2+>透過性AMPA受容体過剰発現によって他の受容体の発現が影響を受けたためか否かを検討する目的で、SINの感染後約48時間のCA1膜粗分画をサンプルとし、ウエスタンブロットにより、GluR2・NR2B・NSE各タンパク質発現量を非感染サンプルのものと比較した。その結果、SIN感染により膜粗分画中のGluR2は増加していたが、NR2Bは不変だったことから、この学習促進はNR2Bの過剰発現のためではないことが示された。
|