選択的注意の本来の機能は、視覚系の限られた処理資源を効率的に配分し、視覚系全体としての適応性を高めることにあると考えられる。注意による処理資源配分については、これまで定性的な研究がほとんどであった。本研究では、以前から注意過程の研究方法として用いられてきた2重課題パラダイムに、統計的効率を指標とする効率分析を適用することによって、注意による処理資源の配分量を推定し、これに基づいて、注意のメカニズムについて、定量的なモデルを構築することを目指したものである。 実験では、2重課題において、注意配分をトップダウン的に、システマティックに変化させ、そのときの各課題における統計的効率の変化、および2重課題全体としての統計的効率の変化を調べた。用いた課題は、1. 2つの課題が、同一のオブジェクトに関するものである場合(すなわち、一つのオブジェクトの、2つの特徴についての課題を同時に行う場合)2. 2つの課題が、それぞれ別のオブジェクトに関するものである場合)の2種に大別される。実験結果より、両種の課題において、課題間干渉は認められたものの、トップダウン的な注意配分を変化させたときには、各課題への注意配分量が変化するだけで、2重課題全体としての処理資源量は変わらないことが明らかになった。また、2重課題の課題の難易度を変化させ、一方を易しくした場合、注意配分量が変化することが観察されたが、全体としての処理資源容量は変わらないことが示された。なお、このときの注意配分量は、必ずしも2重課題全体の成績を向上させる方向への変化とは限らなかった。これらの結果を踏まえ、注意による資源配分過程のモデルでは、全体的な効率性とともに、単一の課題における期待成績と処理資源の関係等が検討された。
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