昨年度の研究では、自動車運転時の移動電話を使用した会話や意思決定が、道路上の危険及び重要事象(標識、信号、歩行者、駐車車両など)認知に与える干渉効果を測定するため、新たな指標を開発した。具体的には、被験者が自動車運転場面のビデオを注視中、同時に電話による会話を模倣した聴覚音声課題を遂行し、その後実施した各事象の出現有無を問う質問紙回答結果より、信号検出理論に基づく感受性d'値を算出し、道路認知パフォーマンスを測定した。その結果、運転場面の出現事象に対する認知レベルの判断は音声情報の同時処理により低下し、その効果はデマンドの低い道路環境でより一層大きくなることが示された。 本年度では昨年度の実験を発展させ、2つの実験が実施された。音量効果実験では、聴覚課題の音量の大小を変化させ、音源効果実験では音声刺激の提示方法(ヘッドホンVSスピーカー)を変化させた。結果より、音量の大小、提示方法の双方とも道路場面の認知パフォーマンスに大きな影響を与えなかった。しかし、NASA-TLXにより測定された心的作業負荷は、音量が小さくなると全体的に高くなる傾向にあり、ヘッドホン提示条件の場合に一部の尺度で高くなった。昨年度の結果と併せて考えると、音量条件の変化や音声情報の呈示条件を変化させても道路認知パフォーマンスの変化が認められないことは、聴覚音声課題の重畳そのものが道路認知パフォーマンスに影響を与えることが提起される。一方で、音量が小さくなり音源からの距離が遠くなると、被験者は認知パフォーマンスを維持しようとするために、心的作業負荷が増大し音声情報により一層注意が向けようとする可能性が結果より示唆される。以上より、自動車運転中の情報機器使用による会話は、音声情報の提示方法に依存せず道路認知パフォーマンスに負の影響を与え、音声情報の提示状態によってその心的作業負荷が増大することが指摘される。
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