研究概要 |
本年度は, 1.音楽のリズム情報の潜在記憶に関する実験研究 2.音楽による情動喚起に関する実験研究 の2点について重点的に行った.これは,申請時の計画とほぼ一致している. 第1点目については,これまでの研究をさらに発展させ,音価(note value)と音高(pitch height)の関係,および,音価と音色(timbre)の関係,の2点から,音楽のリズム情報の潜在記憶の可能性を実験的に解明した.自ら開発した"LJ(Loudness Judgement)"課題によって,リズム的音列についてのプライミング実験を行った結果,いずれも,人間がリズムについての潜在的記憶を保持していることが証明された.現在は,これらの結果を踏まえて,音数を増やした刺激材料により実験を継続し,より一般的な知見を得るための努力を継続中である.なお,これらの結果の一部は既に論文誌および国際学会で発表し,残りも2002年7月の国際音楽認知会議で発表予定である. 第2点目は,音楽による癒し感について心理学的な実験を行うと同時に,生理学的な指標を用いての予備実験を開始した.健聴者に対して,いわゆる"癒し音楽(healing music)"を呈示して,「音楽によって癒されるとはどのような状態か」ということを,因子分析法を用いて調べた.実験の結果,5因子によって説明できることが示唆された.特に,"全般的脱活性因子"と命名した因子によって,全体の分散の約30%が説明できることがわかった.以上の知見は,既に学会において発表済みであり,論文として雑誌に投稿中である. 次年度は,当初の計画どおり上記1と2との融合を計るための作業に移行する.特に,両者を整合的に説明できる計算論的モデルを構築してコンピュータ上に実装し,シミュレーションを行って実験結果との整合性を評価するという作業を行う計画である.
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