研究概要 |
光の透過度(あるいは混色率)を、回転円盤などによって動的な特性として定義しても、それに応じた透明感や色の知覚が生じることが知られている。この際の知覚の様相は、視覚系の時間解像度について仮定を設ければ,視点において局所的に求められる解によって予測することが可能である。しかしながら、ある種の図柄を回転させると、このような局所的な解からは単純には予測することのできない「形状」が知覚されてしまう場合がある。 この際に行われている知覚情報処理を検討するために、以下のような実験を行った。 実験 コンピュータディスプレイ上に、トーラス(ドーナッツ状の円管)とその内側の一点で外接する円形を描き、トーラスの中心「付近」を回転中心として、図形全体が回転している状況をシミュレートし、これを観察した。回転中心となる点の位置、シミュレートする回転速度はそれぞれいくつかの条件を設定した。 結果 回転中心がある偏心位置で、適当な回転速度の時には、現実に模型を作って回転させたのと同じような見え(「トーラス環と中の円(球)が離れて見える」)が実現することがわかった。ところが、低速あるいは高速の回転速度をシミュレートしたときには、明らかに現実とは異なった視覚的印象が得られることがわかった。 考察 この現象に関してのヒトの視覚情報処理を考えるためには、速度のパラメータは不可欠である。しかしながら、今回の実験から、視覚実験装置としてのコンピュータディスプレイの限界を確認することとなった。 次年度の予定 本年度の現象観察結果をもとにして、次年度は、実際の模型を作成して回転事態をシミュレートし、回転速度の透明視・形態視への影響を理論化する。また、この事態と自然画像の時間的変化との関係についても比較検討を進めていく。
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