「球形にトーラス環を外接した構造」のコマ(事物A)と、「球形に棒でトーラス環を接続した構造」のコマ(事物B)を、回転させた場合の見えを比較した。 1.同じ回転速度でも、事物Aではトーラス環と球体が離れて見える(透明印象が生じる)のに、事物Bでは棒の存在に気づく(事物の構造知覚において強い影響を及ぼす透明印象ではない)場合があることがわかった。このことから、当該の現象について、(i)単なる光景の時間的平均化による透明印象とは言えないこと、(ii)光景の時間的平均化が行われているとした場合、その空間的変化が単調変化であることが重要なこと(具体的には、ヒトの視知覚系は単調な変化の情報を形態知覚における事物の構造分析のために利用できず、そこには構造がないという知覚像に至る場合があるということ)、が解った。 2.事物Bで回転する棒部分が判別できる回転速度であっても、事物Aの内接点については不明瞭な印象を持つ場合があることがわかった。このことは、(iii)事物の構造分析において、2D画像的な特徴点(輪郭における曲率不連続点や、輪郭の接合点)が支配的な役割を担っているのではないことを示唆する。つまり、回転運動のような時間的変化を伴う光景においては、個々の事物の形態を知覚するよりも全体的な時空間的光景の知覚(たとえば時間的平均化)が優先される場合があることを示している。 これらの結果は、視覚系の行う情報処理が、時間的な断片情報による詳細な解析ではなく、むしろ時間連続的な変化情報に基づいていることを示しており、知覚的透明感が積極的な時間的情報統合(時間加算)の所産であることを示唆している。この知見は、様々な視覚情報処理の優先順位を生態学的な観点から考察する上で非常に有用である。
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