研究概要 |
本研究の目的は,自伝想起課題を用いた自己関連付け効果の生起メカニズムに関して検討することであり,この目的を達するために本年度は3つの実験を行った.自伝想起には,手がかり刺激から連想される行動を生成する段階と,生成された行動が各被験者の保持する自伝的記憶に適合するかを検索・再認する段階が包含されている.さらに,検索・再認を行う段階には,意識的な検索を行う場合と,熟知性に基づく自動的な検索が行われる場合がある.実験1では,検索・再認段階に焦点をあてて,自伝想起において意識的な検索を行わせる条件(意識的自伝想起)と熟知性に基づく自動的検索を行わせる条件(自伝メタ判断)を設定し,いずれの条件で自己関連付け効果が生起するのかを検証した.その結果,意識的自伝想起においてのみ自己関連付け効果が得られた.この結果は,自伝想起における意識的検索が自己関連付け効果の生起に重要な役割を果たすことを示している.また,実験2では,自伝的記憶の記憶痕跡の古さを要因として操作し,意識的検索の自己関連付け効果に対する十分性について検討した結果,自伝想起の記憶痕跡の古さにかかわらず自己関連付け効果が得られた.この結果は,自伝想起において意識的検索を行えば自己関連付け効果は生起することを示唆している.さらに,実験3では,自伝想起の検索結果を"記憶を思い出せた(Remember)","わかるだけ(Know)","思い出せない(No)"に分類させ,各判断を行った刺激語の再生率について比較を行った.その結果,"記憶を思い出せた(Remember)">"わかるだけ(Know)"であった.これは意識的検索を行った刺激語は熟知性による自動的判断より再生率が優れていることを示すものであり,意識的検索の自己関連付け効果の生起に対する重要性を示す傍証の一つであるとみなすことができる.
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