研究概要 |
本年度の研究においては,人間が共変動情報から因果関係を帰納するしくみについて,確率モデルに基づき適応的観点から明らかにした.因果帰納の元となる共変動情報は,原因候補事象(c)と結果事象(e)の生起・不生起に関する2×2の事態表によって表現できる.従来,因果帰納の独立変数として,原因が起きたときに結果が起きる確率P(e|c)と,原因が起きなかったときに結果が起きる確率P(e|not-c)との対比で定義される随伴性の指標が用いられてきた.本研究では,これと異なる観点から,新たに二要因ヒューリスティックス・モデルを提案した.これは,結果の予測可能性P(e|c)と原因の適合性P(c|e)という2つの確率に注目し,両者ともに高い場合に因果帰納が成立すると考えられるものである.このモデルの妥当性について,特に原因と条件の区別に焦点を当てながら実験的に検証した.その結果,一部を除き予測通りの結果が得られ,モデルはほぼ支持された.一方,随伴性の影響も僅かながら見られ,方略の混在性によるものと考えられた.実験結果は,Wason選択課題における推論について適応的観点から提案された希少性仮説(Oaksford & Chater,1994)および双条件性仮説(Hattori,2002)と整合的であった.このことから,このモデルは,現実的環境における適応的なヒューリスティックスとして,非常に優れたものである可能性が示唆された.現在,二要因ヒューリスティックス・モデルの適応的合理性について,コンピュータ・シミュレーションの手法を用いながら,さらに深く究明中である.
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