研究概要 |
平成14年度は,音楽の持つ覚醒的性格が聴取への希求とパーソナリティ特性との関連に関わることを明らかにする調査と,音楽聴取中の時系列データから聴取中のメタ動機づけ状態をとらえる実験を行った。メタ動機づけ状態とは,Apterの心理反転理論(1982)が提唱する概念である。 1.日常生活の状況下での音楽聴取への希求を,外向性および神経症的傾向の高低により比較した。「提示された様々な状況に自分がおかれたと想像したとき音楽を聴きたいと感じる程度」の評定に対し多次元尺度法と因子分析を行い2次元と6因子を見出した。覚醒的性格,鎮静的性格を持つ楽曲のそれぞれに対する聴取希求評定を求めたところ,いくつかの因子における差から,外向者は音楽を自分の覚醒水準を操作するために用いるが内向者はそのような働きを音楽に求めない、ということが示された。(論文投稿審査中。) 2.聴取中の気分変化を交感神経緊張との対応関係において同期的に観察した。11名の被験者が,3つの聴取刺激すなわち2つの楽曲とFMラジオ離調ノイズを聴取した。聴取中の指尖容積微分脈波のP波振幅(ΔDPG),呼吸数,気分評定(快-不快)を測定し,5秒区間毎の平均値を算出した。各被験者の,ΔDPGと気分との間の同期的な対応関係を観察したところ,5つのパターンが見出された。(学会発表予定。) 3.上記2のデータのうち音楽専門教育経験を持たない被験者9名の平均値について各指標の同期的な変化を分析した。楽曲の後半において指尖容積微分脈波P波間隔の延長(心拍の減速)と快気分との対応関係が見られ,音楽を心地よい刺激と認知し取り入れようとすることで心拍の減速と同時に快が生じたと考えられた。この関係は刺激聴取中の後のブロックにおいて生じたことから,この状態になるにはある程度の聴取時間を要することがうかがえた。生理指標変化のいくつかは音圧と対応して生じ,これらは音楽の持つ物理的な音刺激としての側面への応答と考えられた。(学会発表予定。)
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