研究概要 |
自閉症児の予期に関与する脳機能を明らかにする研究の一環で,本年度は,まず,予備的かつ基礎的な実験として,右利きの健常成人20名を対象として,視覚刺激に対する後頭部視覚野領域の反応を近赤外線分光法を用いて調べた.近赤外線分光法によって測定される酸化ヘモグロビン量を指標として分析した結果以下のことがわかった. 1.後頭部視覚野の反応は視覚刺激呈示によって賦活される.2.左右対称な視覚刺激に対する一次視覚野の反応は左半球優位である.3.一次視覚野の視覚刺激に対する半球優位性は利き手に関与している.4.一次視覚野の周辺領域,特にBrodmannの19野(2次視覚野)の左右対称な視覚刺激に対する反応は右半球優位である.5.一次視覚野と2次視覚野の反応は独立している. 一般に一次視覚野は,最も初期の投射系であり,より低次な情報処理を担うと考えられている.それゆえ,左右対象な図形が刺激として用いられた場合,左右視野に呈示される情報量は等しいはずである.にもかかわらず,本研究で一次視覚野の反応で左側優位性がみられたのは,より高次の機能が一次視覚野に関係していることを示唆している.2次視覚野についても同様に,一次視覚野とは異なる高次の機能が関与していると考えられる.特に,本研究では,この2次視覚野の部位は空間運動処理に関係していることが示唆された.近年の研究では,ヒトの高次機能の1つである注意が後頭部視覚野の反応に影響することが明らかになってきている.それゆえ,視覚刺激を使用して実験パラダイムを考案し,ヒトの高次の脳機能の1つである予期について調べる場合にも,後頭部視覚野領域の反応を十分に検討する必要があるといえる.
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