研究概要 |
本研究では,自閉症児の教育において脳機能,及び生理心理学的な研究が少ないことから,自閉症児の予期に関与する脳機能を明らかにすることを目的として研究を進めた. 初年度は,脳機能の基礎的研究として,近年,注目をあつめている近赤外線分光法をもちいて,視覚刺激に対する後頭部視覚野領域の反応を調べた.これは,後の実験パラダイムにおいて,視覚刺激を使用するため,それを呈示したときの反応を抑えておくためでもある.これにより脳機能を測定する方法はある程度確立できたといえる. しかし,このような方法を用いて自閉症が実験を参加していくにはいくつかの課題があった.第1に対象者(フィールド)の確保,第2に,実験室効果の除去,第3に,自閉症が実施できる予期に関与する課題の工夫である.そこで,昨年度後半から本年度にかけては,学校現場に出向き,自閉症等の障害のある子どもの指導に関わりながら彼らの行動特性を評価して,それに応じて実験パラダイムを確立し実施することを計画した.その結果,次のような自閉症児の予期に関する特性を把握することができた.(1)予期しているイベントから逸脱したことがおこると情緒不安定になる,(2)社会性や関係性スキルにかかわる文脈では,それに対処する適切な手段をもつことが難しい(3)社会性や関係性スキルにかかわるすべての文脈で対処できないというわけではない.また,科研費によって購入した視覚刺激呈示ソフトやノートパソコンによってフィールドにおいてパフォーマンス課題が行えるようなシステムを整備した.これらにより,社会性や関係性スキルに関わる文脈を刺激とした文脈予期課題を現在作成している.これは,今後の自閉症児の障害や認知特性を把握することに関連の深い特殊教育や認知科学の領域の発展に寄与するものといえる.
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