本研究の目的は、異なる集団間文脈がどのように異なる心理的プロセスを引き起こした結果、どのようなタイプの集団間行動が生まれるのか、すなわち「集団間文脈と社会的アイデンティティプロセスの交互作用」についての新たなモデルを提出し、その妥当性を実証的に検討することである。そのため、本年度は理論的なレビュー、および2つの実験研究を行った。ここでは、実証研究の結果について報告する。第1研究では、大学生を実験参加者とし、自分の所属集団をその他の集団よりも優遇する「内集団ひいき」行動の出現パターンが、集団間文脈の違いによってどのように影響を受けるか検討した。その結果、予測通り、1)集団間文脈が競争的である場合には、内集団に所属するメンバー間に相互依存性が存在しようとなかろうと内集団ひいきがみられたが、2)集団間文脈が競争的でない場合には、内集団内の相互依存性が存在するときのみ内集団ひいきが見られた。第2研究では、第1研究の追試を行った。第1研究からの変更点は、集団間文脈をプライミング法を用いて操作したことである。その結果、やはり予測通り、1)競争的集団間文脈をプライムされた参加者は、内集団メンバー間に相互依存性がしないときにも内集団ひいきを示したが、2)中立的なプライミングをされた参加者は、内集団内の相互依存性が存在するときのみ内集団ひいきを示した。以上の結果は、集団間文脈の違いが異なる心理プロセスからの集団間行動を生み出すという本研究の仮説を支持するものである。現在、以上の知見を国際誌上にて報告すべく、論文執筆中である。
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