本研究の目的は、異なる集団間文脈がどのように異なる心理的プロセスを引き起こした結果、どのようなタイプの集団間行動が生まれるのか、すなわち「集団間文脈と社会的アイデンティティプロセスの交互作用」についての新たなモデルを提出し、その妥当性を実証的に検討することであった。そのため、本年度は準実験研究および実験研究をそれぞれ1つずつ行った。まず、準実験を行った研究3では、皇太子妃が出産した時期(国家間競争・葛藤の弱い状況)、ワールドカップサッカー開催時(国家間競争・葛藤の強い状況)、そして北朝鮮問題発生時(国家間競争・葛藤の強い状況)の3つの時点において、大学生の愛国心と外国からの脅威の認知が互いに関連を持つかどうかを検討した。その結果、予測通り、愛国心と脅威の認知の間の正の関連は、国家間競争・葛藤の強い状況のみで見られた。次に、実験室実験を行った研究4では、大学生を参加者とし、自分の所属集団をその他の集団よりも優遇する「内集団ひいき」行動の出現パターン、および集団認知のパターンが、プライミングされた集団間文脈の違いによってどのように影響を受けるか検討した。その結果、予測とは異なり、内集団ひいき行動のパターンにも、集団認知のパターンにも、集団間文脈の操作が影響を与えなかった。このように研究4は必ずしも成功しなかったが、平成13年度からの4つの研究のうち3つにおいて仮説を支持する結果が得られたことは、集団間文脈の違いが異なる心理プロセスからの集団間行動を生み出すという本研究の仮説を全体として支持するものといえるだろう。現在、以上の知見を国際誌上にて報告すべく、論文を執筆中である。
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