平成13年度は、成人受刑者の自己統制能力について検討し、その成果を、犯罪心理学研究39巻1号に原著論文として発表した。 本研究では、犯罪者(成人受刑者)の自己統制能力と、犯罪進度(過去の非行歴の有無・複数受刑の有無の2つの下位分類から成る)や家庭環境(実父の欠損・実母の欠損・親の逸脱行動・親の就業状況の4つの下位分類から成る)の関連性を検討するため、共分散構造分析を行なった。まず、犯罪進度を測るために設定した2つの下位分類のうち、特に、過去の非行歴は、犯罪進度との間に強い相関が見られた。そのことから、20歳までの、警察補導以上、あるいは、捕まっていなくても薬物使用や無免許運転の経験は、犯罪進度を示す重要な指標の1つとなりうると考えられた。次に、家庭環境に関しては、4つの下位分類とも、大きく関係していることが示されたが、中でも、実父の欠損が、子どもに大きな影響を与えることが指摘された。このことは、本研究の被験者が男性であることを考慮に入れると、彼らの抱える父親への同一視不全や、家庭内の躾における父親の役割の重要性が示されたものと解釈できた。最後に、自己統制能力と犯罪進度・家庭環境との関連性からは、何らかの理由により、親が欠損していたり、逸脱行動や頻回の転職など一般に不適切と思われる行動の多い親に、不安定な家庭環境の中で育てられると、それを身近に見て育った子どもは、自己統制能力が低くなる可能性が強まること、そして、自己統制能力の低さは、犯罪に関わる可能性をかなりの確率で高め、20歳までの非行行動という形で現われやすくなることが示された。
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