研究概要 |
本研究は,外国語の語彙の獲得に影響を与える要因を探り,語彙の効果的な学習法を提案することを目的に,認知心理学的研究の枠組みでこれまでに提唱されてきた学習法を再検討し,新しい学習法の意義と有効性の検証を行おうとするものであった。 昨年度は,同じ二言語間でも単語のもつ特性によっては心内辞書における語彙表象や概念表象間の関係性が異なること,また獲得した外国語語彙を処理する際に習熟度の低い被験者群では与えられた意味的文脈を適切に利用することができないこと等を実験の結果から示した。このことより,効果的な語彙学習のためは,単語の特性や種類,当該単語が利用される意味的文脈等を配慮し,二言語間の意味の単なる一対一対応のみにとどまらず,その単語のもつ幅広くダイナミックな意味を獲得できるよう考慮すべきことが示唆された。 今年度は,まず,認知心理学の分野において外国語語彙の学習法を扱った研究をレビューし,それらの課題を整理した。その結果に基づき,上述したような単語のもつダイナミックな意味を獲得するのに特に有効だと思われる,語源的知識を利用した語彙学習法を取り上げ,他の学習法との比較検討を行った。実験では,人工的に作成した外国語単語に対する日本語訳の学習を課題とし,直後再生ならびに一週間後の遅延再生の成績が指標とされた。その結果,語源的知識を利用して学習した群が他の条件(イメージ生成や単純リハーサルなどを行う)よりも概ね成績がよかったが,遅延再生ではその効果はやや減じた。今後は,この学習法の心的メカニズムを詳細に検討し,その有効性が何に起因するものであるのか,遅延成績で効果が減じた理由は何であるのかを明らかにすると共に,この方法が特に効果的に働く単語の種類等を特定し,今回のような実験的な状況における方法から実際的な語彙学習法としてより洗練された手順とすることが必要となろう。
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