1.昨年度に施行した質問紙調査(回顧法)および半構造化面接の逐語録を作成して分析を行った。結果の一部は論文(11.欄に記載)にまとめており、その概略は以下の通りである; (1)いじめ被害経験者の約1/4が何らかの"物語"をもって対処をしており、その内容は(1)マスメディアが流す情報や伝記などが供給する、社会に既存の物語に依拠する場合と、(2)一般的な言葉や格言ではあるものの重要な他者(多くは親)がもたらした場合の大きく二つが認められた。これらの物語は、いじめた加害者の側にみいだされる理由、なぜこの自分が被害にあったのか、そのような被害を受けた者の将来像などの手がかりをもたらすことによって被害者の対処とアイデンティティに影響を及ぼし、また物語によっていじめに対する認識も変化していく可能性が示唆された。 (2)以上をふまえ"物語"の内容分類(5カテゴリー)それぞれについて、事例分析を行った。「加害者を取るに足らないと見下す物語」は、加害にまつわる物語をもつことにより、たまたま自分が標的になったに過ぎないという事態の相対化には寄与するものの否定的な影響が残ること、「加害者への復讐や仕返しとしての自殺の空想」は共同体感覚をもたらしうること、「特別という感覚を生む物語」は、違いに不寛容となる思春期から青年期前期においてアイデンティティ感覚を支える非常に強力なモデルとして作用すること、「被害の意味づけを肯定的な方向に移行させる物語」はいじめ自体を利用する方略であること、「格言など」は対人関係の敏感さ等の長期の亘る影響を及ぼすことが考察された。 2.1998年に施行した、いじめ被害者に対する質問紙およびロールシャッハ・テストのフォローアップ面接を2002年8月に行った。 3.2003年3月23〜25日、ACA(アメリカ・カウンセリング学会)総会に参加して、関連研究のレビューを行う予定である。
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