本研究では留学経験者の異文化適応と「緩衝機能」について、生涯発達の視点から検討を試みた。留学生の発達段階には個人としての発達段階と、外国人として異文化適応が求められる発達経過がある。特に大学における留学生の発達段階は青年期から成人期まで幅広く、適応を一層複雑にしている。 本研究では留学という事象について、「危機的移行」という視点に着目した。Wapnerは危機的移行を「人間-環境システムの急激な崩壊」と定義している。またEriksonによると、人生の中で起こる出来事への適切な対処は人間の成長に、失敗は破局につながるとされる。人生の移行や危機に個人がいかに対処するかが重要なのである。 この「対処」が緩衝機能と密接な関わりをもつといえる。緩衝機能とは、文化的背景が異なるものに接する際に生じる差異を媒介・調整する働きである。移行や危機の結果がポジティプならば様々な諸要因が緩衝機能として効果的に働き、逆にネガティブであれば効果的に働いていないということが想定される。 今年度は留学経験者の移行や危機の変遷や対処について、参与観察、半構造面接法により調査を実施した。対象者は日本への留学経験者17名であり、その内の2名は現在も大学院生として日本に滞在している。事例の整理枠組みとしては、基本的属性の他、留学経費や留学経歴等により整理し、個々の留学過程に応じた課題の変遷を、個人としての発達課題と外国人としての発達課題の2側面から分類・整理した。 次年度は:1.個人としての発達課題と外国人としての発達課題の時系列的変遷、2.個人としての発達と外国人としての発達の交点における課題への対処、3.その結果として生じる帰結、の3点について整理する。さらに各課題への対処方略について緩衝機能の視点から変容過程をみるとともに、留学経験者のライフコースにおける留学という環境移行の位置や意味について分析を進めていきたい。
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