研究概要 |
感情表出の社会化に,家族が重要な役割を果たすことは多くの研究で論じられているが,影響過程については明らかにされていないところが多い.本研究は,(1)家族形態により,子どもの感情発達の違いが生じるプロセスを明らかにするためのデータを収集すること,(2)祖父母-父母-孫の三世代間において,いかなる心理的な授受が行われているのかを明らかにすることを目的としている. 今年度は,13年度に作成した「家族における感情表出質問紙」を予備調査に基づき修正した.その結果31の感情について,それぞれ(1)家族の中で感じる程度,(2)家族の中でどの程度表現してきたか,(3)家族の中で表現することを抑えてきた程度,(4)家族同士で表現し合う程度を尋ねる質問紙を作成,大学生(男子45名,女子53名)に実施した.また,これらの被験者に対してはFamily Assesment Test (FAST)を行った。家族の感情表出について家族形態(三世代家族・核家族)による違いを検討を行ったところ,核家族では喜びの感情を抑制し,三世代家族では,落胆,苦しみ,罪悪感,敵意,恐れ,憎しみ,嫌悪,軽蔑といったネガティブ感情を抑制し,幸せ,愛情といったポジティブ感情を核家族よりも家族同士で表現していた。一方FASTについて検討したところ,現実の家族における親密性と階層性から判断される家族構造タイプについて,核家族は調和型,非調和型,中間型がほぼ同数見られたが,三世代家族では中間型が多く,調和型,非調和型が少ないという結果が得られた。 以上の結果から,三世代家族はネガティブ感情を抑制し,家族同士でポジティブな感情を表出することによって,極端に良い,もしくは悪い家族関係ではなく,ほどほどの家族関係をつくりだしていることが示唆された。
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