最近民間診察所ができたM県A島におけるフィールドワーク的調査を実施した。調査はまず、この診察所の協力を得て、来院した高齢者へのインタビューを行った。内容は、診療所ができる前後で生じた日常生活、生活満足度・QOL、将来展望、島や家族への思いなどの変化である。結果としては、近所に医療施設が存在することは、高齢者のQOLを大きく向上させ、特に不安を軽減させていることがわかった。この効果は、医学的な安心感だけではなく、一緒に来院する人々との集いや語らいによってももたらされているようである。診療所がばらばらになりつつあったコミュニティをつなぐ働きをも担っていることが確認された。 また、先の診療所での調査対象者の自宅を訪問したり、A島の島民運動会に出場するなど、コミュニティに入り込み、その上で対象者に生涯を回想してもらい、島の社会的・文化的文脈と、そこで生きてきた人々の生涯との関連をも検討した(現在も続行中)。途中経過であるが、結果を述べると、大正〜昭和初期は貧富の差が激しく、生活水準やライフスタイルは経済水準にある程度対応していた。大戦中および終戦直後は島民皆が貧しく、戦後現在に至るまでの間に島民のほとんどが豊かになったと言えるほどになった。この島に生きる高齢者は、幼少時には貧富の差に応じた各人各様の生活を送っていたようであるが、大戦、戦後と経過するうちに家による生活の違いは逆になくなっていったようである。「昔のことをいえばきりがない。今は皆が豊かになって、皆仲良くできる」というある高齢者のことばにこれは象徴される。一方で、若い世代が島を去り、高齢者夫婦か独り暮らしの世帯がほとんどとなっている現状については、「昔は貧しかったが、人がおおぜいいてにぎやかだった。今は寂しい」ということばに代表されるように、物質的な豊かさは必ずしも精神的な支えとはなりえないようである。診療所での集いがこれを支えているのではないだろうか。 以上のほか、M県周辺の温泉施設を視察し、ここに集う高齢者へのインタビューも試みた(現在も続行中)。ここでも他者との語らいや集いの効果が推測された。
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