M県のある離島に在住する高齢者のQOLをめぐる諸要因をフィールドワーク的に調査・検討した。13年度はこの島に新設された病院によるコミュニティの変化と、それによる在住高齢者のQOLへの影響を調べたが、14年度は今年度新設されたデイケアセンターの影響をコミュニティの変化と合わせて検討した。この島では、おのおのの家で毎日のように「お茶のみ会」が催されており、これが高齢者、特に女性の楽しみでもあり生きがいである点が、コミュニティの特色である。これにデイケアセンターでの「集い」が加わり、ともすれば単調になりがちな日常生活にまた1つ生活する楽しみができたようである。それまでは病院が治療の場と同時に「集い」の場も兼ねていたが、「集い」の部分はデイケアセンターに機能が移ったようである。デイケアでの主人公は女性で、男性は配偶者に連れて来られている印象がある。現在高齢の男性はやはり働けることに価値をおいており、デイケアのような世話になる(サービスを受ける)、あるいは「集い」のような余暇活動など労働以外に楽しみを見いだすことには禁欲的である。このようにデイケアセンターの新設によるQOLへの影響は性差があるようである。また、女性でもデイケアで行われるゲームやカラオケ、入浴など社交的な催しに抵抗がある人の参加率は低い。さらにデイケアは75歳以上の人がいく所という一種規範のようなものがあり、従って75歳未満の人々の参加率も低い。 この他、13年度に示唆れた高齢者のアイデンティティとQOLとの関連についても検討した。特に自らが「働き者」であったことに誇りを持つ人が多い。同時に今もまだ現役であることを強調する傾向が強い。これは男女を問わない。女性では、働くこと以外に「家を守ること」に人生の意義を位置づける人が多い。一人暮らしにもかかわらず、家を日々清掃する女性の行動にそれは象徴される。自らの生き様に自信と誇りを持っているこの島の高齢者はみな元気である。
|