研究概要 |
第一に,昨年度に引き続き,人間とコンピュータを相手とした社会的交換状況において,相手の決定方略が意思決定過程に与える影響を検討した.囚人のジレンマを課題として,(1)ゲームの相手(他の参加者/コンピュータ),(2)相手の決定方略(50%でランダムに選択/方略不明),(3)決定の順序(自分が相手より先に決定/後に決定)の3条件の効果を検討した.主な測定指標としては,(1)決定(協力/非協力),(2)状況に対する主観的利得構造変換,の3つを用いた.昨年度の実験(森・行廣,2001)では決定方略の操作の有効性が確認できなかったため,方略に関する操作をより具体的に改善して実験を行った.結果は,森・行廣(2001)の知見が概ね再現するものであり,人間を相手とした交換は,相互協力を望ましいものであるとして主観的に状況を変換して認識させ,高い協力率を引き出すことが確認された.また,コンピュータ相手の場合の決定過程は,参加者の確率事象に対する理解度と関連していたが,対人場面においては,確率理解度と決定過程は無関係であることが示された.これらの結果は,対人的場面での相互協力が,コンピュータを相手とした抽象的やり取りとは異なり,他者の存在の手がかりを基盤としていることを示す. 第二に,決定過程における情報処理プロセスを明らかにするために,利得情報への注視時間をMoving Window Systemによって計測した.協力率等の変数については従来どおりの結果が再現された.しかしながら,各利得情報への注視時間とこれらの変数の関連は認められなかった.既設機器の故障のため,計画していた眼球運動による注視時間測定が実施できなかったが,複数の方法による計測結果をもとに,Moving Window Systemによる測定の妥当性について検討し,同時に計測法を改善することが重要な課題といえる.
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