江戸時代の禅僧である白隠慧鶴(はくいんえかく:1684-1768)は、「軟酥の法」という準感覚的イメージを用いる養生法を『夜舟閑話』『遠羅手釜』のなかで紹介している。本研究では、「軟酥の法」を現代の臨床心理学の視座より検討し、イメージ療法(guided imagery)として再編することを目的とした。【研究1】においては「軟酥の法」の効果の検討、【研究2】においては文献的検討をおこなった。 【研究1】健常者12名を被験者として、4週間「軟酥の法」を練習させ、練習の効果、実施上の留意点、効果的な練習の進め方について検討した。その結果、練習に伴いイメージの鮮明度が有意に高まり、状態不安が練習を通して有意に低滅することが確認された。また、イメージを身体上に投影させるため感覚過多という現象が被験者に生じやすいことが練習上の留意点として確認された。 【研究2】(1)「軟酥の法」は天台の止観に基づくものである。この止観の体系のなかでこの技法を促え、その構成や狙いを仏教・道教をはじめとする広範な文献をもとに検討した。(2)イメージ療法・催眠・瞑想に関する心理学研究の流れを概観し、現代の心理療法のなかでの独自性や位置ずけを考察した。「軟酥の法」は、1)複数のモダリティのイメージを用いること、2)身体上にイメージを投影すること、3)「軟酥」はリソースを外在化させたものであること、4)「軟酥」というイメージは個人内・対人間の相互作用を進める有効な媒体であること等が示唆された。
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