研究概要 |
平成13年度においては,「自己参照効果により知識獲得(学習や教育)が促進される基礎的な条件(どのような分野に有効か?,どんな課題が適切か?,どんな被験者に有効か?など)を実験的に明らかにする」ことを目的・目標とし,以下の3点に関しての検討をこころみることを予定していた. (1)既有知識の組み合わせが主な学習対象となる分野と新規知識の獲得が主な学習分野のどちらに有効か? (2)自己参照を行う課題のうち,どのような課題がどのような学習項目に対して有効なのかについての検討をする.さらに学習時の課題と記憶測定時の課題の交互作用についても検討を行う. (3)自己概念や自己の関わる経験が豊かな成人は,それが劣る児童よりも自己参照による学習の促進されると予測される. 実際に,本年度において検討を行ったのは(1)既有知識と新規知識のどちらに有効か,(2)課題と学習項目の組み合わせ,に関するものである.小規模な(予備的な)観察実験を通じて明確になったのは,(1)実験室的な記憶研究において用いられる自己参照の手続きを学習へそのままあてはめてもほとんど効果がない,(2)(そのままあてはまめると)参加者の学習への意欲が低下する(「面倒だ,意味がない,ばかばかしい」という感想があった)という,という2点である.これらの結果をうけて,本研究の主目的である「自己参照の教育場面への応用」における「自己参照」自体の有効性について新たな検討が必要だと考えている.本研究の場合,「自己参照」自体のメカニズムを探るのではなく,「自己参照」を一つの道具として教育,学習を促進させることに目的がある.そこで研究を実りあるものにしていくためには,「自己参照」だけでなく,もう少しはばひろく「何に参照させる」ことが学習を促進させるかを考えなければならない.現在,自己参照と対をなす「社会的参照」を考慮に入れた検討を行うことを予定している.
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