2年間にわたり、知的障害のある人たちのセルフ・アドボカシーの実態と可能性を探るため、知的障害のある人たちの本人の会について、質的・量的研究を行った。1年目は主に量的研究(有効回収数は知的障害のある本人分が628通(有効回答率242%)、支援者分が122通(有効回答率31.3%)、66団体(50.8%))を、2年目は主にエスノグラフィーの手法を用いた質的研究を行った。 この研究によって実感したことのひとつは、本人の会の多様な展開である。「本人が中心である」あるいは「本人が主体的である」ことを指標として研究を進めたが、これらの指標の内包も一義的ではなかった。すなわち、知的障害のある人たちの自立を支援する際、知的障害のある人たちと支援する人たちとの関係は、多様な形態がありえる。この多様性をどう扱うかということが、研究を進める上での困難であった。しかし、限界を伴っていたものの、いくつかのことがらは一般化しえたと思う。もっとも一般化しえたことのひとつは、支援者の考え方や行為や態度が、自立支援の決定要因として大きな位置を占めているということである。ことさら、本人の「できない」側面への焦点化による、過剰な支援が、本人たちの自立を妨げる。また、本人への役割付与や、本人どうしの関係形成が、重要な自立支援の決定要因となっていることも、一般化しえた。本人と支援者とが、どのような「本人が中心である会」をつくっていくかというビジョンを共有していることも大切であった。したがって、本人や支援者が、本人の会について多くの情報を得たり、本人の会どうしが交流することの重要性が確認された。支援のあり方に関しては、「本人のペースに寄り添う支援」として「基本的な自己決定支援」「必要に応じた個別支援」、および「支援者のペースを優先する支援」といったカテゴリーを抽出して、その内包を検討することができた。また、質的研究によって、本人の会における具体的なコミュニケーションの一端を示すことができた。今後の実践にとって価値のある資料になると考える。 研究の成果は、一般の研究成果報告書(全108ページ)と、知的障害のある人たちを読者に想定した報告書『素晴らしい"本人の会"のための本』(全25ページ)を刊行した。
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