本年度は音楽療法研究の最前線に位置するアメリカ合衆国を対象として、渡航による資料収集を行い、その分析を通じてアメリカ合衆国音楽療法の前史とも言うべき19世紀末から20世紀初頭の障害児学校における音楽教育の受容過程について、とりわけ障害児学校の先駆であった盲学校を中心に検討を行った。その結果、なかでも19世紀末に成立した幼稚部(kindergarten)教育においては、音楽教育が「発達上の危機」に直面している年少時期の盲幼児にとって、心身の十全な発達、仲間との協調や協力、自主的な学習意欲の伸長など、今日の音楽療法に共通する重要な目的の達成に寄与していたことが明らかとなった。19世紀末のアメリカ盲学校幼稚部にとって、音楽教育は人間的発達におよぼす効果ゆえに最も重要な指導内容と看做されていたが、既に1世紀余前においてみられたこの音楽教育に対する重要性の認識は、その後半世紀を経て成立した障害児学校における音楽療法の萌芽として位置づけられる。 一方、臨床的アプローチとしては、今年度は2名の知的障害児を対象として、年間を通じて個別指導を実施したが、その結果から、音楽療法に求められる成果やその有効性については、対象児の生育歴や生活環境に大きく依拠していることが示唆された。
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