本年度は、昨年に引き続き音楽療法発祥国のひとつであるアメリカ合衆国を対象として、障害児教育諸学校における音楽教育(音楽活動あるいは療法的要素を含む)の成立過程について、検討を行った。その結果、とりわけ障害児教育諸学校の成立期に相当する19世紀から20世紀初頭については、各学校における音楽教育の発展状況には、極めて大きな地域間格差が認められたこと、言い換えれば、障害児教育諸学校の音楽教育は、学校が設置された各地域の文化的水準を明確に反映していたことが明らかとなった。 臨床的アプローチについては、昨年からの継続ケースである2名の知的障害児を対象として、個別指導を行った。その結果、いずれの対象児についても、歌唱指導場面において、発語の明瞭度に一定水準の改善がみられたほか、1名については、器楽指導を通じて手指運動の敏捷性にも発達がみられた。 さらに、今年度は新たな研究内容として、現在の我が国における音楽療法士養成システムの実態について検討を行った。具体的には、音楽療法士養成コース、専攻等を持つ4年制大学、短期大学、専門学校等を対象として、(1)我が国における音楽療法士養成コースの設置状況、(2)入学時点において音楽療法士を目指す学生に対して学校側が求める諸能力、(3)各校におけるカリキュラムの整備状況、(4)現在、我が国において唯一の音楽療法関連学会である、日本音楽療法学会が設定したガイドラインとの整合性、(5)欧米諸国における音楽療法士養成機関との比較検討を行った。 その結果、現在、我が国に設置されている音楽療法士養成コースは、その大部分が音楽大学もしくはこれに準ずる教育機関に置かれていること、また、多数の学校において、音楽療法士養成コースは非常に平易な水準の入学試験しか課されておらず、実質上、定員充足のための調整弁的役割を果たしている可能性が濃厚に示唆された。
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