本年度は、自然管理を社会学の領域から考えた先行研究の整理をするとともに、阿蘇谷にあるひとつの集落で聞きとり調査を行い、二次的生態系保全をめぐる問題の全体的な構図をあきらかにした。 本研究でとりあげている二次的生態系保全は、経済構造や生活様式の変化のなかで、むらの住人たちが、以前のようなかたちで山や池を利用することがなくなった結果、「問題」として意識されるようになってきたことである。阿蘇の事例の場合、それが、下流の都市における川の水不足や災害など、顕在化した環境問題を引きおこしていないにもかかわらず、自然は「荒れてきた」と認識され、都市からの働きかけがはじまっている。それにたいして、地元の人がどのように答えようとしているかについての聞きとりをすすめた結果、そこには微妙なズレがあることがわかった。来年度は、引き続き調査を続け、そのズレが何に由来するのかを探っていきたい。 また、研究史において注目したのは、村落社会学の環境研究と、環境社会学のコモンズ論である。それらの分野において、土地や自然の利用・管理がどのような視点からとらえられてきたかについて整理した。その結果、従来のコモンズ論の多くは資源管理という視点からむらを論じていることや、近年、公共性や、多様な主体間のコミュニケーションの問題としてコモンズを掘り下げようとする動きがあきらかになった。また、村落研究は、学問としての基本的な態度のなかに「むらとは何か」という原理的な問いを含んでいることに特徴があり、そこにもどることによって上記のようなコモンズ論の深化にも結びつけられるのではないかと考えるに至った。
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