本年はこの二年間の総括として、二次的生態系をめぐる社会問題を、「発言力」という視点から論考(次頁参照)にまとめた。「発言力」という視点を採用したのは、権力や社会制度の問題としてとらえられていたのにたいして、ある社会的な場において所有(発言力)がいかにして形成されてゆくかというダイナミズムも視野にいれることができるからである。 本研究でとりあげている二次的生態系保全(阿蘇の草原)は、経済構造や生活様式の変化のなかで、むらの住人たちが以前のようなかたちで山や池を利用することがなくなった結果、「問題」として意識されるようになった空間である。論考ではまず、昨年来の調査にもとづいて、現在のむらは、「生産」を根拠としてとらえることができなくなったことをあきらかにした。 また、阿蘇の事例の場合、それが、下流の都市における川の水不足や災害など顕在化した環境問題を引き起こしていないにもかかわらず、自然は「荒れてきた」と認識され、都市からの働きかけがはじまっている。それにたいして、地元の人々がどのように答えようとしているかについての聞き取りをすすめた結果、そこには微妙なズレがあることがわかった。具体的には、草原の維持にも観光化(経済的な効果)にもつながっていく誘いにたいして、地元のむらは消極的な対応しかしないのである。 地域社会の構造や草原とのかかわりを調査するなかで、このような対応(草原への発言)に背景には、「責任を引き受けるのが誰か」という地域社会の内外にかかわる問題が潜んでいることがわかった。以上のことをふまえ、論考では一九八〇年代を中心とする村落社会学の研究史にも注目したうえで、現在のむらの、土地にたいする発言力が何を根拠にしているのかを考察した。
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