本研究で、情報化を「技術と杜会の相互作用プロセス」として捉える観点に立って、大分県の情報通信ネットワーク構想に関するメーリングリスト<「TOYO-HYPERメーリングリスト」:電子ネットワーク上のコミュニケーションの場)の事例を通して、地域情報化政策をめぐる地域社会と市民との関わりについて考察を試みた。 はじめに、地域メディアとしてのインターネットと市民(地域住民)との関わりについて検討した先行研究の知見を整理した。つぎに、TOYO-HYPERメーリングリストにおけるメンバーの発言に関する計量分析および言説分析をおこない、電子ネットワークにおける「市民」の姿および「市民」に対する認識のあり方、すなわち「市民像」について検討した。 結果として、大分県のみならず全国各地で「地域」をテーマに積極的に活動している「ごく少数のユーザー」が地域情報化政策をめぐる諸問題を生活問題として把握した上で主体的に発言する傾向にあったこと、TOYO-HYPERメーリングリストにおける議論の流れのなかで行政サービスの利活用者、電子ネットワークおよび地域社会の「担い手」、そして政策立案過程への積極的な参加者として「市民」が象徴的に語られていたことを明らかにした。 これらの知見は、新しいメディアとしてのインターネットとマス・メディア、そして市民社会の関係形成のあり方を考察する上で重要なポイントだと考えられる。市民とメディアとの関係性が紡ぎだす新しいタイプの市民社会構築の可能性を模索する上で、まずは電子ネットワーク上の討議をめぐる現実を直視する必要性があることをTOYO-HYPERメーリングリストの事例は示している。 なお、今回の研究成果については、2001年10月20・21日第6回日本社会情報学会大会(於:札幌学院大学)において「電子ネットワークにおける市民像に関する-考察-「豊の国ハイパーネットワーク構想メーリングリスト」を事例として-」というタイトルで報告をおこなった。
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