本研究の目的は、現在我が国において劇的な変容を遂げている高齢者福祉NPOの動向を「高齢社会」という歴史的文脈から論考した上で、こうした高齢者福祉NPOの設立・運営という動向を<市民事業化>と名付け、この<市民事業化>の展開との相互連動的に形成されつつある主たるNPOの担い手である市民のアイデンティティの変化を社会構築主義の視座から社会学的に解読することである。 本年度は、高齢者福祉領域における<市民事業化>を歴史的な文脈から位置づけつつ、日米それぞれにおけるフィールドワークによる比較分析を通じて住民意識の変化を媒介とした地域社会の変容を社会学的な視点から解明した。 調査としては、まず4月末日より埼玉県さいたま市において自ら痴呆性高齢者を介護する女性住民の手によって設立された2つの痴呆性高齢者のグループホームを対象に直接面接法を中心とした緻密なフィールドワークを実施した。次いで、8月上旬からは福岡市、北九州市、長崎市において市民が自ら設立・運営している宅老所ないしNPOの調査活動を行った後、9月上旬から中旬にかけて米国(特にカリフォルニア州及びフロリダ州)において全米退職者協会(AARP)ロスアンゼルス支部、高齢者虐待オンブズマンのNPOであるWISE Senior Servicesを始めとする代表的な複数のNPO事業活動のフィールドワークを実施した。その後10月からは主に日米の高齢者福祉領域におけるNPOやボランティア団体に関する先行諸研究の広範なレビューを行い、両国の比較分析を進めた。 上記の広範かつ長期間に及ぶ緻密なフィールドワークに平行して、膨大な調査資料を渉猟した上で、文献研究を遂行し、これらの研究結果の一部(特に本研究の理論的視座である構築主義に関する論考)に関連する論文を幾つかの学会誌及び紀要にて報告・発表した。
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