昨年度に引き続き、日本と韓国両方の政策当局および関連業界、専門家などを対象に積極的に聞き取り調査を行い、数回にわたって韓国での実際の「日本大衆文化」の受け入れ状況、そして日本における「韓国文化」の実態にっいても調査を進めてきた。一連の研究作業の成果は、単行本としての出版を目指しているが、本研究を進めながら研究の対象を、両国における関係認識のほうにシフトさせた経緯があり、今年度においても直接的な研究の成果は「日韓の相互認識」に関連するものが多かった。その第一の理由は、昨年7月以来、いわゆる「歴史教科書問題」や「靖国神社問題」で韓国内の世論悪化などを背景に「日本大衆文化」の追加開放が中断されている状況が続いたことに関連している。この問題をめぐる韓国内のメディア言説や政策担当者とのインタビュー結果などから、「日本文化開放政策」が一般の貿易政策とはちがって、さまざまなレベルの日本認識(他者像)に大きく影響されていることがわかった。「日本文化禁止」政策にも過去の歴史をめぐる記憶や政治が大きく関わっており、その点を解明した上でさらに近未来の展望を示す作業がより緊要な作業であると指摘できた。一方で、2002年W杯の共同開催をきっかけに両国間の文化交流・交易の動きは大きく進展した。しかし、一連の現象においても、日本と韓国それぞれの「自画像」と「他者像」をめぐってさまざまな相互作用が見られたので、いわば両国における相手認識がどのように国内政治へ動員され、いかなる作用をもたらすのかを解明する作業に主に取り組んできた。なお、今後も本研究テーマの問題意識を維持しながら、「東アジアの文化の地形を、市場、イデオロギー、民族、言語などの多様な層の分節状況および相互に影響しあう複雑な絡まりのダイナミックス」を解明する作業を続けていきたい。本研究はその出発点となるものであった。
|