経済自由化後のインドでは、フォーマル・セクターでも、解雇や企業閉鎖が大規模に行われている。労働者に対する経済・政治・社会の諸側面からの複合的な実証研究を行うことによって、労働者世帯の安定のためにはどのような制度が必要であるのかを明らかにし、問題提起を行うことが、本研究の最終的な目的である。 今年度は、99年にインタビューしたムンバイーの生産労働者の中から、ロックアウト中の工場で雇用されている労働者に対する追跡調査を実施した。ロックアウトから2年後の99年には、大半の労働者は操業再開に希望を持っており、再就職先を探す気力が欠如していたため、生活水準は極めて低かった。3年後の今回の調査では、労働者は操業再開の希望を持っておらず、本格的に将来を模索している。 99年には全世帯がほぼ同様の経済状況にあったが、今回は、子弟の就労などにより生活水準が上昇した世帯、3年前のように世帯員が低賃金労働をすることで生計を維持している世帯、ほとんど収入のない世帯の3つに分かれる。すでに残高がないため3年前のように年金の前払いを受けて凌ぐことができず、金融業者からの借金が増大したり、援助してくれていた親族との関係が著しく悪化したりしていたケースも少なくなかった。また、家を売って帰郷した者は約20%である。 将来設計については、師弟の教育と結婚に対する考えに大きな差異がある。教育を継続するためには、支援組織にアクセスする意欲やネットワークの有無が重大になっている。また、世帯が低収入で、結婚による生活の向上が見込めない場合であっても、借金や年金の前払いを利用して通常通りの儀礼を行い、社会的地位の維持をはかる世帯が大半を占める。一方で、忌避される傾向にある届出婚を行うことで、過分な支出を抑制し、生活の安定や長期的な将来設計を立てる世帯もある。支出額が大きいだけに、長期的には大きな差異が生じることは間違いない。
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