本年度の研究における主たる取り組みは、次の2点である。ひとつは、大分県の児童養護施設における入所児童の悲嘆に関するデータを参与観察によって収集したことである。もう一点は、悲嘆研究に関する先行研究の整理である。以下に進捗状況及び得られた研究実績の概要を報告する。 (1)調査の進捗状況 施設入所直後からの参与観察によりデータを収集中である。以下に注目されるデータの一部を紹介しておく。 ・3歳の男子に急性悲嘆症状ではないかと思われる夜驚が入所後1ヶ月にみられた。 ・5歳の男の子にも入所後3ヶ月目にして、夜驚がみられた。同様に、分離時に強い悲嘆症状、分離されたことに対して興奮して泣きわめく状況がみられた。 ・9歳の男の子は入所後は一見安定しているようにみうけられた。だが、入所後4ヶ月目にして「学校に行かない」と強く抵抗することで職員の気を引くなどの退行現象がみられた。 (2)悲嘆研究に関する先行研究の整理 悲嘆に関する先行研究を整理してみると、死別に関する議論が主であり、施設入所児童のような理不尽な理由によって分離された児童に関する研究が少ないことが判明した。先行研究のなかで注目されるのが「complicated grief」(複雑な悲嘆)という概念である。また、近年人間の成長にとって自己物語の存在が注目されているが、親との分離体験は、子どもの内在化された物語にどのような意味をもつのか、さらに検討を進め、これをデータの分析の基軸として用いていきたい。
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