研究初年度は、ドイツにおける大学改革、特に設置形態および管理運営組織にかかる改革の動向を把握するための作業を行った。その過程において、収集した文献を使用し、また関係機関を直接訪問して調査を行った。本研究の主たる課題は、実験条項の運用であるが、研究の進捗に従って、関連する大学改革の手法をも視野に入れることとした。その結果、訪問調査の対象としてベルリン州およびニーダーザクセン州を選定した。調査によって得られた知見の概略は次の通りである。 ベルリン州では、1996年および1997年に制定された財政構造改革法によって高等教育法の中に実験条項が設けられた。現在、財政構造改革法により部の課程を他大学へ移管し、また附属病院の統廃合を進めるなど、財政効率を高めることを目標に掲げた改革が進められている。また、大学の運営機構は、実験条項の適用により州の高等教育法から逸脱している。現在、諸大学における種々の試行をふまえて、新たな高等教育法の策定がはじまりつつある。一方、ニーダザクセン州では、高等教育法を改正する法案が2002年6月に成立する見通しとなっている。この法案によると、営造物の状態にある州立大学の一部が、財団を設置者とする法人型の大学へと転換され、学術文化省による行政が間接化される。もっとも、財団が十分な基本財産を確保することはできないから、当分の間、州政府からの交付金に依存することになる。なお、調査の過程において、州がみずから私立大学を新設したブレーメン州や国立大学を公務員を置かない法人へと転換したオーストリアの事例と、ベルリンのように実験条項の運用しつつ、設置形態を変えることなく大学改革を推進する事例との比較研究を進めることが必要であるとの示唆を得た。
|