本年度の研究実績は、2001年3月27日のフランスの教育大臣の指針演説を受けて中等教育段階における言語教育の実態についてまとめることにあった。 近年、フランス政府は、EUにおける「ヨーロッパ言語年」の行事に伴って、昨年より言語教育に関する方針を積極的に打ち出し、古くから存在する国内地域語問題と新世紀を機にEUによる地域統合の流れを受けた外国語教育の開始時を初等教育段階からという政策(2001.1.29.)の実施を通達化している(通達番号99-176:1999.11.4.)。これを受けて、2002年度より外国語教育の導入は、幼稚園年長組より実施されることになった。これらに加えて、フランスでは1992年より中等教育において外国語の習得を促進させる言語学科が設置されている。その「欧州・東洋言語科」について今回ミネルヴァ書房から刊行された『国際化とアィデンティティ』(2001)にまとめた。ここでは、外国語教育と同時に社会系あるいは理系科目の外国語による教授が平行して行われることで、活きた外国語教育の実績がみられた。ここでの言語能力は、高校、大学への進路指導に外国への留学などが含まれていくことからも実証されている。ただし、このことは、本研究の主な対象となる非富裕層な移民労働者の子どもたちには直接的に関係していないことも明らかとなった。なぜなら、これら「欧州・東洋言語科」に在籍する生徒の多くは中流階層以上であり、主に高等教育進学希望者でもあるからである。従って、移民子弟の母語(母国語)教育や、進路指導に必ずしも直結したかたちで役立っていないのが現状である。 しかし、フランス国民教育省による外国人児童の学業達成調査(1996)においても明らかなように、かれらの学業達成と文化背景(この場合には、家庭で使用される言語)に有意な関係があることは確かである。また、かれらの学業達成の上で重要な要因変数に親の学歴(特に母親)、親の職業(女子生徒の場合、母親の職業の有無)、兄弟姉妹の数(兄・姉の進学状況)、親の学習や進路に対する期待度などが挙げられる。 ここで、問題となるのが、かれらの家庭における使用言語が学校の教授言語と異なる生徒の場合、ブルデューらの文化資本論に依拠するならば学業達成に不利に働く要因とされてきたものが、今回の調査結果からは有意な差異が見られなかったことである。この点は、学業達成との充分な因果関係が見出せなかったので、二言語併用との関係で来年度の課題としたい。
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